2012/03/15

「広告エージェンシーとデジタルエージェンシーが融合し、新たな領域へ」取材#2:Saatchi&Saatchi 前編

インタビュー第二弾は、Saatchi&SaatchiCEOハンス・シードウさんです。

ハンスさんは1974年にコピーライターとして広告業界入りをしました。84年には、当時勤めていた広告エージェンシーのニューヨーク支社を立ち上げ、その後ストックホルムに戻って自分のエージェンシーを設立。93年には再度ニューヨークへ飛びましたが、97年にまた母国へ戻り、それ以降の拠点はストックホルムです。現在のポジションには2004年から就いています。

60歳を越える広告業界大ベテランのCEOということで若干身構えていたのですが、とても気さくで優しい方で、LinkedInのプロフィール写真通りのイメージでホッとしました。

今回はQ&A的な書き方ではなく、個人的に興味深いと思ったところを要約しつつ、インタビュー内容をご紹介したいと思います。



ということで、


興味深いポイント①:
広告エージェンシーとデジタルエージェンシーの融合


ここ数年、スウェーデンの広告業界の産業構造に、ある変化が起きています。一言で言うと、広告エージェンシーとデジタルエージェンシーの融合です。

5年ほど前までは、広告エージェンシーとデジタルエージェンシーは役割が明確に分かれていました。広告エージェンシーは広告主と長い付き合いがあり、相手のビジネスを熟知しています。しかしデジタルに関しては知識とスキルが追いついていない部分もあり、デジタルエージェンシーの手を借りてコミュニケーション戦略の構築をしていたそうです。一方で、デジタルエージェンシーはデジタルメディアを専門に扱い、直で広告主と仕事をすることもありましたが、多くの場合は広告エージェンシーから仕事を受注するという形でした。しかし、

「この関係が、ここ数年で大きく変わってきているんだよ」

と語ってくださったハンスさん。
多くの広告エージェンシーは、デジタルメディアが無視できない存在であることを認識し始めると、メディア環境の変化に対応すべく、社内の組織構造を変えることに注力しました。方法としては大きく二つ:

①デジタル専門部署を立ち上げ、デジタル専門家を雇う
②全社員にデジタル知識を身につけてもらう(Saatchi流)

逆にデジタルエージェンシーは、もっとビジネスを拡大したい、直で広告主と接したい、などの理由により、広告エージェンシーから人材を引き抜くようになりました。要するに、デジタルだけではなく様々なコミュニケーションチャネルを活用することを視野に入れ、広告エージェンシーと同じサービスを提供することを目標に定めた、ということです。


数年前までは、ビジネス領域が別々だった広告エージェンシーとデジタルエージェンシー。けれども今は、

お互い新たな領域に移動していて、競合関係になっている。今では大体同じサービスをクライアントに提供できるようになったんだよ。(もう区別せずに)コミュニケーション・エージェンシーと呼ぶことができるよね。
とハンスさんは教えてくださいました。

Saatchi&Saatchiは広告エージェンシーですが、彼らがデジタルエージェンシーのような発想を持って携わった、あるプロモーション事例をご紹介します。

昨年の秋、改良されたアリエール(洗剤ブランド)の宣伝を行うため、Saatchiは一風変わった実演イベントを実施しました。ストックホルム中央駅にガラス張りの大きな部屋を用意し、その中に、白いワイシャツ目掛けてチョコレートやケチャップを発射できるロボットを設置。Saatchiはこのロボットの操作を、Facebook内で行えるような仕掛けにしたんです。汚れたシャツは駅の通行人に見守られながらちゃんと洗濯され、後日Facebookユーザーの自宅に郵送されました。



このアイディアは、デジタルエージェンシーが思いついてもおかしくないようなものだ。けど、広告エージェンシーである僕らが考え出した。これが今の広告業界の姿だ。 
数年前までは、デジタルはオプションでだった。クライアントとの会話は、「デジタル/ソーシャルメディアを使いますか?」だった。けど今は、「どうやって使いますか?」に変わってきている。
とハンスさん。


広告エージェンシーとデジタルエージェンシーの区別がつかなくなっている状況を、アリエールの事例と共に、わかりやすく説明してくださいました。もちろん、すべてのエージェンシーが移行できているわけではなく、出遅れているところもあるようです。

人材流動性の高い業界なので、出遅れているイメージを業界に持たれてしまったら危険ですよね…。優秀な人材を惹きつける・キープする工夫を常に考えないといけません。そういう意味でも、アリエールのキャンペーンの成功はSaatchiにとって、とても重要だったそうです。


中編、もしくは後編に続く。